若狭湾河口域プロジェクト(WakWak)

里海生態保全学分野 山下 洋


 京都大学フィールド科学教育研究センターは、平成15年4月に発足以来“森と里と海の生態的なつながり”すなわち「森里海連環学」という新しい科学領域の創生を目指して、概念の構築と研究推進のための準備を進めてきた。舞鶴水産実験所は平成16年4月より、森里海連環学の一環として芦生研究林と共同で若狭湾河口域プロジェクトを開始した。私たちはこれをWakWakと呼んでいる。
 若狭湾には、長さが20km前後で集水域面積が比較的近い河川が、西から野田川、伊佐津川、南川、北川、耳川の順に流れ込んでいる。流域は東へ行くほど人口が減少し森林面積の割合が増大する傾向にある。WakWakでは、これら5河川について、集水域の構造(人口、産業、土地利用、森林など)と河川の水質、底質、河口域の水質、底質、生物組成等を比較し、陸域の構造との因果関係の分析を試みている。また、安定同位対比を用いて、河口域の生物生産における陸域の貢献度の推定を行う。さらに河口域ではクラゲ類を採集し、クラゲ類の量や食性と陸域の構造や河川水質などとの関係を調べ、近年のクラゲ類の異常発生の原因のひとつとして、陸域からの物質供給の影響について研究を行っている。
 由良川は芦生研究林を源流のひとつとして、京都府の北半分を流域におさめ舞鶴水産実験所から西に7.5kmほどのところで若狭湾に注ぎ込む。フィールド研の日本海側施設としては、本来由良川を中心に研究を行うべきかもしれないが、前述の5河川と比べると規模が非常に大きく多数の支流を擁しており、一筋縄ではいかない。そこでWakWakでは、まず河口域における動植物の安定同位対比マップを作成し、それを土台に陸域との相互関係の解明に着手する計画である。この他、WakWakの一環として、芦生研究林の間伐材(針葉樹としてはスギ、広葉樹としてはミズメ、ブナなど7種)を利用した魚礁を水産実験所近くの水深7mの地点に設置した。本研究は、間伐材魚礁の魚礁としての効果を調べるだけでなく、森林から海への物質供給とその生物的な影響を直接測定する試みでもある。木から海水への物資の溶出を測定することは簡単ではないが、里山資源保全学分野からレンタル移籍中の中西麻美助手が積極的に挑戦している。
 WakWakには水産実験所と芦生研究林のスタッフに加えて、大学院生と4回生の3名も参加している。福井県立大学の青海忠久教授、富永修助教授の研究室とも連携して調査を進めており、次回のWakWakに関する記事では成果を報告できるよう努力したい。

ニュースレター2号 2004年11月 研究ノート