ポケゼミ報告2009「原生的な森林の働き」

森林環境情報学分野 中島 皇 講師


 今年度も4月,5月に1回ずつ北部キャンパスで1コマセミナーを,6/13(土)には上賀茂試験地で1dayセミナーを,7月に芦生研究林で後述の合宿形式セミナー(2泊3日)を行った。参加者は定員一杯の8名(男6,女2)で,学部別には法2,理2,医1,工1,農2,出身地は沖縄県浦添から北海道富良野と全く違う環境で育った仲間が集うことになった。フレッシュな新入生諸君がフィールド(森林)に出て,自ら体験し,考え,自然と人間の関わり方に興味を持つ契機とすることがこのセミナーの目的である。
 芦生での集中セミナーは,7月11日(土)の広河原バス停集合で始まった。今年は昨年の失敗を教訓に芦生と連絡を十分取ったので,難なく迎えの車に乗り込めた。ムシムシする梅雨空ではあったが,昼食後は由良川本流沿いのトロッコ道を芦生の標高が低い谷沿いの自然を観察しながら,タケヤクリ(芦生研究林の本体)まで歩いた。山からの清水の冷たさに驚き,境界の大きな「転倒スギ」に対面して,絶好の足慣らしになった。夕食は鍋。蒸し暑くても夜になれば鍋ができるのが,芦生の良いところである。夜は,芦生研究林の概要説明と研究林が抱える問題点を話し合った。
 7月12日(日):天気は薄曇り。昼食のにぎりめしを作って出発した。大面積・長期プロットと暖温帯と冷温帯の移行帯についての説明を受けながら標高差で400m程を上がっていく。ブルドーザーのキャタピラにある鳥の巣や林道の水たまりにいるモリアオガエルのオタマジャクシ。普段はあまり目にしない光景は新鮮か。福井県境のすぐそば,杉尾峠下で車をおりてブナの林に入っていく。芦生上谷の森では10年くらい前からシカが増え,林床にはオオバアサガラやテツカエデなどのシカが嫌う植物以外はほとんど生えない状況になっている。昔を知る者からすれば,これを原生的な森林と呼べるのか疑問が残るが,トチノキやオニグルミの木にある大きな洞や直径が3.4mもあるカツラ(合体木)に出会えば,なかなかの感動はあるだろう。午後には夏空。気温も上がり,上谷量水堰では流量観測に挑戦した。学生の中には裸足になって川に入り,測定よりもその感触を楽しんでいる者もいた。下谷では大桂,二次林と人工林を観察し,幽仙谷では天然林からの流出物を回収した。夕食はI君が腕によりをかけて作った和風カレーが配られた。カレーの鍋はあっという間に空っぽになり,大好評であった。夜はTAの研究紹介に対して,心地よい疲れに船を漕ぎながらも,毎年,質問の時間はなかなかの盛況である。
 7月13日(月) 前日の流量データをレポートにまとめた。最後に宿舎・食堂の片付けとフィールド研からのアンケートを書いてセミナーは終了となった。感想文には,芦生の森に触れた興奮が率直に表現され,期待通り・想像以上などそれぞれの気持ちが書かれていた。