カイカムリの「Cap making」行動で 確認された「個性」

カイカムリの「Cap making」行動で 確認された「個性」

瀬戸臨海実験所 原田 桂太

 海には多種多様な甲殻類が生息しており、その中にカイカムリ(Lauridromia dehaani )というカニがいます。このカニは、海綿やホヤなどを使って、自分の体サイズに合った大きさ、かつ背中の丸みに合わせたくぼみを掘った被り物(Cap)を作成し、それを背負います。本研究では、体サイズにぴったり合ったCap よりも大きいものが好きな個体や、小さいものが好きな個体がいるか、すなわち個体ごとに嗜好性があるかどうかに注目しました。
 そこで、3つの異なるサイズの人工スポンジを同時にカイカムリに与え、好きなものを選ばせてCap を作成させるという試行を、38個体について、1個体あたり複数回行いました。その上で、①最初に選択したスポンジ、②加工後のスポンジ、③作成したくぼみ、のサイズについて、カニの体サイズと関係があるか、また個体ごとに嗜好性があるか、を調べました。個体ごとに嗜好性があるかどうかは、それがあると仮定した階層ベイズモデルと、ないと仮定したモデルを作成し、それぞれについて、どれくらい予測の間違いが少ないかを評価する指標「WAIC」を計算することで比較しました。
 その結果、①、②、③はすべてカニの体サイズと関係があり、体サイズが大きいほど大きいスポンジを選び、大きいCap を作成し、大きいくぼみを作成することがわかりました。また、個体ごとの嗜好性があると仮定したモデルのほうが、WAIC の値は小さく、より予測が良いという結果になったため、カイカムリの行動には「個性」が存在すると結論づけました。
 今回の実験では、同一の個体は似たような行動を繰り返すと仮定し、これを個性と考えました。そして、個性を階層モデルに組み込む方法を提案しています。この方法は、動物の個性だけでなく、階層構造を考えるほうがよいのかどうかを検討すべき、他の問題にも応用できると考えられます。

ニュースレター53号 2021年2月 研究ノート