舞鶴水産実験所における高校生向け教育プログラム

里海生態保全学分野 甲斐嘉晃


 今年度舞鶴水産実験所では,地元舞鶴の高校を始め6校を対象に実習や授業を行いました.これらには,科学技術振興機構(JST)から支援されるサイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)によるものや,文部科学省が指定するスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の実習も含まれており,高校生対象とはいえ,大学で行う実習や授業に近いレベルの教育を行っています.
 調査船「緑洋丸」を使った実習では,桁網(けたあみ)を使った生物採集や環境測定を行います.ほとんど船に乗った経験のない人が多く,波が高い時には揺れる船上で気分が悪くなってしまう人も出てきてしまいます.しかし,桁網が水面にあがってくると,気分が悪いのも忘れて多くの生徒は興味津々に網をのぞき込みます.また,船上で測定機器から得られた環境情報をリアルタイムでパソコンの画面に表示すると,真剣に解説を聞いています.
 刺し網などを用いた実習では,網を引き上げるところから始めます.フィールドワークは高校生にとっては戸惑いを感じさせるのか,初めのうちは網に引っかかった魚を外すのさえ尻込みしています.しかし,いったん慣れてしまうと,「くさい」を連発しながらも真剣に実習に取り組んでいます.採集した生物は,図鑑を使って種の同定を行い,さらに講義もまじえながら,形態的特徴と生態との関連などについて考察させています.
 一方,由良川を中心とする水質調査では,芦生研究林の中西助教の協力を得て,上流部から川を下りながら水をサンプリングし,COD(化学的酸素要求量),アンモニウム態窒素,硝酸態窒素などの測定や懸濁物質の観察を実験所で行います.分析は可能な限り一人ずつ行うということもあり,さまざまな機器を使いながら理解を深めています.
 どの実習においても,得られたデータを班ごとにパソコン上で分析し,自由に考察させています.さらに,その成果をプレゼンテーション用ソフトを用いて全員の前で発表するというスタイルをとっています.フィールドでのデータ収集から成果発表までは,我々が研究を行っていく上でも基本的なプロセスで,高校生には難しい部分もあるのかもしれません.しかし,研究成果の発表を聞いていると,期待している以上の成果を発表してくれることがあり,驚かされます.実際の実習内容というのは,自然科学のごく限られた一面です.実習を通して研究することのおもしろさを感じ取り,将来,研究者を目指す学生が一人でも増えてくれることを願ってやみません.

ニュースレター21号 2011年1月 教育ノート