佐藤拓哉さんの白眉研究員採用によせて -ハリガネムシの佐藤さん

森林生態保全学分野 德地直子

 京都大学次世代研究者育成支援事業「白眉プロジェクト」とは(京大HPより抜粋)
 グローバル化が進展する昨今、学問の新たな潮流を拓くことのできる広い視野と柔軟な発想を持つ創造性豊かな人材を育成することが重要な課題です。次世代を担う先見的な研究者を育成するため、京都大学次世代研究者育成支援事業「白眉プロジェクト」を立ち上げ、優秀な若手研究者を年俸制特定教員(准教授、助教)として採用し、自由な研究環境を与え、これを全学的に支援する仕組みを構築します。(編集部

 “すっごい面白い研究している人がいるんですよ!ここのセンターの連環学にぴったりの人ですよ!”といって紹介してもらったのが、佐藤さんでした。すぐにゼミに来ていただきました。お話は破格に面白く、生物に疎い私には驚くことばかりでした。彼の研究を私の理解の範囲でかいつまむと…、ハリガネムシという寄生虫が川におり、水生昆虫の中にはいり水生昆虫の羽化の際に陸上にでる。陸上では水生昆虫がカマドウマのような陸生昆虫に食べられ、それを機会にハリガネムシは陸生昆虫に寄生する。カマドウマなどに寄生したハリガネムシは年頃になり繁殖シーズンになると、川に戻って繁殖したい。しかし、カマドウマは陸生で水に入らない。そのため、ハリガネムシはカマドウマの脳神経を操作する物質をだし、カマドウマを水に飛び込ませる。カマドウマは泳げないので、おぼれている間にハリガネムシはカマドウマの肛門から脱出し、めでたく産卵に向かう。一方、おぼれたカマドウマは魚のよい餌となる。寄生を介した思いもよらない物質循環、しかもそれが森と川という異なる生態系をつなぐ重要な経路となっていることは本当に新鮮で驚かされました。
 佐藤さんは三重大学でキリクチという魚の保全生態の研究で学位を取得されました。その研究の過程で、魚がかなり多量の陸生昆虫(カマドウマ)を餌としている、ということに気付かれたそうです。しかし、そもそも陸生昆虫が魚の餌になる?魚が積極的に虫を獲るならわかるけど、カマドウマはそんなに水に近づく?うっかり落ちるなんてものだろうか?というのが着想のヒントだったそうです。いわれてみると確かに昆虫はそんなに水に落ちそうではない…。フィールドでの緻密な観察から見出された疑問を、ハリガネムシを介した森と川の大きな経路につなげたこの研究は見事としかいえません。このような寄生を介した経路は森と川にとどまらず、より広い範囲で生態系をつなぐ経路として非常に重要であることが予測され、注目されています。
 佐藤さんは京都大学白眉研究員として、来年度よりフィールド研に着任されることが決まりました。白眉研究員誕生に心からお祝い申し上げるとともに、多様な系を相手に “ハリガネムシの佐藤さん”としてさらにすばらしい研究を重ねられることを期待しております。

ニュースレター21号 2011年1月 ニュース