ILASセミナー報告2020「北海道の昆虫相 / 公開森林実習II」

ILASセミナー報告2020「北海道の昆虫相 / 公開森林実習II」

森林情報学分野 講師 小林 和也

 本セミナーは,北海道の森林生態系における昆虫相とその生態について調査・研究手法を学ぶことを目的として,北海道研究林において8月6日から10日にかけて行う予定であったが,新型コロナウイルス感染症の流行に伴い,オンライン講義で代替することとなった。履修生は当初5人を予定していたが,実習のオンライン化に伴って3人の学生が履修の取り消しを希望し,最終的には農学部から2人が履修した。また,北海道研究林においてILASセミナーと同時開講している公開森林実習IIの参加者として,和歌山大学観光学部から1人が参加した。
 実習に先駆けて京大生を対象にオンライン講義形式でガイダンスを行い,実習のねらい,昆虫相の概要,北海道研究林の気候や地理要因について解説し,ピットホールトラップと簡易式ライトトラップを紹介した。これらの情報を元に,昆虫相に影響を与える要因について履修生に思いつく限り挙げてもらい,それらの要因が実際に影響を及ぼしているか検証するための各トラップの設置条件を検討してもらった。その結果,森林内の下層植生と簡易式ライトトラップのLED波長の違いがトラップで採集される昆虫相に与える影響を比較することとなった。
 学生不在のまま,予定していた実習での作業を教職員で実施した。北海道研究林標茶区の尾根沿いのアカエゾマツ人工林においてチェーンソーを用いた間伐作業を行い,前後で林床の明るさを比較したのち,5年前に間伐を行った林分と間伐を行ったばかりの林分において,下層植生調査とピットホールトラップおよび簡易式ライトトラップの設置を行った。翌日,仕掛けたトラップを回収し,捕獲された昆虫をピットホールは科レベルで,ライトトラップは目レベルで仕分け,エクセルにまとめて各林分における昆虫相の定量データとした。間伐風景,調査風景を動画で撮影するとともに,パワーポイントにまとめたデータの解説と解析方法をZoomを用いて録画し,これらの動画をつなぎ合わせたものをPandAにアップすることで学生に提供した。各学生には動画を視聴してエクセルのデータを用いて結果を解析し,何故そのような結果が得られたのかを推測し,それを検証するような実験手法をレポートとして纏め,提出するよう指示した。
 オンライン講義ということで,実際の森林を肌で感じてもらうことは残念ながらかなわなかったが,ある地域の昆虫相が形成されるプロセスをデータから推測し,得られた知見を纏め,興味を惹かれた部分を発表し,より深く掘り下げていくためにはどうしたら良いか考えるという研究のプロセスを少しでも体験してもらうことができるよう心掛けた。

年報18号 2020年度実習報告