実習報告2023 ILASセミナー 「芦生研究林の菌類多様性に触れよう」

森林情報学分野 講師 松岡 俊将

 芦生研究林において菌類の多様性に実際に触れて学ぶ機会を提供する目的で、2023 度より新たにILAS セミナー「芦生研究林の菌類多様性に触れよう」を開講しました。本実習はまず、5 月20 日にILAS セミナー「里山の物質循環―燃料・肥料・食料から考える―」と「北海道のきのこの多様性と生き方」の教員・受講生が合同で上賀茂試験地において、そして9 月28 日から30 日にかけて、芦生研究林において野外実習を行いました。
 上賀茂試験地では、最初に試験地の概要や取り組み、菌類の生き方や森林におけるはたらきに関する講義を行いました。次に、暖温帯性の常緑広葉樹を中心とする関西低地林の植生観察と、薪割りやシイタケの駒打ち体験を行いました。普段スーパーや食卓でしか目にすることのない菌類(きのこ)が、森林ではどのように生きているのか、そしてどのように生産されているのか、座学と野外体験を組み合わせることで、目に見えない菌糸の存在を想像しながら学びました。
 芦生研究林では、植生の観察ときのこ調査を通じて、植生ごとの菌類多様性の違いやその要因を考えました。まず、ブナやミズナラを中心とした林やトチやカツラを中心とした畦畔林などの冷温帯性の落葉広葉樹林の観察ときのこ調査を行い、上賀茂試験地との植生の違いを体験し学びました。次に、スギ人工林で調査を行うことで、林業による景観や林床の環境、そしてきのこ相の変化を学びました。それぞれの林で見つけたきのこのうち、一部は標本として持ち帰り、図鑑と見比べたり顕微鏡を用いた詳細な形態の観察を行ったりしながら同定することで、各林で見られたきのこリストを作成しました。
 29 日の夜には、同日程で北海道研究林において開催されていたILAS セミナー「北海道のきのこの多様性と生き方」の参加者とZoom ミーティングを行い、芦生・北海道それぞれの植生や見つけたきのこ、そして参加者それぞれの「推しきのこ」を発表し合いました。芦生研究林と北海道研究林は、ミズナラなど共通の樹種がいる一方で、樹種の多様性や造林樹種が異なります。また、芦生はシカの過採食により林床の植生がほとんどないのに対して、北海道研究林は一面がササに覆われています。こうした植生の違いや見つかったきのこの違いなどを参加者間で話し合うことで、国内の森林や人と森林の関わりの違いを学び合いました。30 日は、菌類の多様性はどのように生まれ・維持されているのか、実習を通じて学んだことと考察をレポートにまとめて発表してもらいました。
 参加者には、きのこを研究したいというきのこマニアから、スーパーと食卓以外できのこは初めて見るというきのこ初心者まで、さまざまな背景を持つ学生がいました。人の顔ほどもある大きなアカヤマドリを見つけてみんなで歓声をあげたり、寄生菌であるカメムシタケに寄生するマユダマタケなどマニアにしか見つけられないきのこの発見と解説に感心したり、ツキヨタケの発光を暗い部屋で観察したり、みんなで歩くフィールドでしか得られない体験と学びが多い実習でした。

年報21号 2023年度 主な取り組み