第20回芦生公開講座

里山資源保全学分野 准教授 長谷川 尚史


 芦生研究林で開催する公開講座は1991年に開始され,2泊3日の日程で一般市民を対象に,初日と3日目に講義,2日目に芦生天然林の観察・解説と簡単な調査方法の実習,という形態で続けてきた。2010年度は20回目にあたり,これまでの総括として,芦生で長年,調査を行ってきた研究者や技術職員,演習林時代の歴代の林長らを講師として招き,第20回芦生公開講座「森のしくみとその役割-芦生のあゆみ」を開講した。受講者は24名であった。
 まず初日は,長期にわたり芦生研究林において森林動態を調査されてきた安藤信フィールド研准教授から,「芦生の森はどう変化したか?」と題してその研究成果の報告をしていただき,続いて元林長である川那辺三郎京都大学名誉教授から「大学の山「芦生」」と題して氏の学生時代の芦生の森の姿や芦生をとりまく社会情勢などを交えた講演をしていただいた。さらに元林長の神崎康一京都大学名誉教授から,「山(森)を活かす」と題して,氏の過去の芦生での研究やこれからの森林管理の方向性,木質バイオマス資源利用の最新情報などをご紹介していただいた。初日最後は,芦生研究林の西岡裕平技術職員および荒井亮技術職員から,実際の樹木の枝を用いた「樹木識別実習」が行われた。
 2日目午前中は例年通り天然林の観察・解説を行った。参加者を4班に分け,フィールド研教員および芦生研究林技術職員から,樹木の識別法,種ごとの生育環境特性,近年の研究テーマなどを解説,時に雑談を交えながら,ゆっくりと杉尾峠から長治谷まで歩行した。午後は受講者それぞれの体力と興味に応じて,健脚コース,水を量るコース,木を測るコース,長治谷ぶらつきコースに分かれた班別行動とした。健脚コースは三国峠を往復しながら森林の解説を行い,水を量るコースでは由良川源流域における量水堰等の見学とパックテスト体験,木を測るコースでは立木の樹高計測実習と実際に伐採しての計測などを行った。2日目終了後の夕食は,芦生山の家において懇親会を行い,講義中には聞けなかった質問などを受けるとともに,様々な立場の受講者との交流を図った。
 3日目は,まず,元芦生研究林長である酒井徹朗京都大学大学院情報学研究科教授から,「山の暮らしの未来」と題した講義で,日本および世界の森林資源の現状と林業の動向,過疎化など人口問題を含めたこれからの社会構造の考え方について解説を受けた。最終の講義は野外講義とし,灰野集落跡まで歩き,中根勇雄元フィールド研技術専門員から「芦生のくらし」として,昔の暮らしの中で利用されていた様々な植物とその用途について解説していただいた。すべての講義が終了したのち,事務所前で弁当による昼食となったが,この際,中根氏のご厚意により,山菜の天ぷらが振る舞われた。
 厳しい経済環境もあり,受講料のほかに宿泊費用のかかる公開講座への参加者は減少傾向にあるが,講座終了後に記入していただいているアンケートによると,受講者の評判は非常に良く,特に近年は自然に関する講義だけでなく,限界集落の問題など,人の暮らしについても関心が高いと考えられる。こうした公開講座における一般市民との交流は,京都大学やフィールド研,研究林が求められているものを再認識できる大変良い機会であり,21回目を迎える次年度以降も,より受講者が増加するような枠組み作りを検討しながら,積極的に開催していきたい。

年報8号  2010年12月 p.4

(参考)イベント案内ページ