森里海連環学分野連携准教授(学際融合教育研究推進センター森里海連環学教育ユニット特定准教授) 横山 壽
7月1日付で着任しました。私は京都大学農学部水産学科に1970年に入学し、大学院農学研究科を1983年に単位取得退学しましたので、30年ぶりに古巣に戻ってきたことになります。学部の卒業研究の準備として教室を回った際に、当時水産生物学講座の岩井保教授より、「沿岸の底生動物は動きが少ないからその場所の環境をよく反映する、林勇夫助手がこの観点から研究しているので、卒論のテーマにしないか」との提案があり、強く興味をそそられたことを昨日のように思い出します。
30歳を越えてようやく大阪市環境科学研究所に職を得ることができました。当時、大阪湾の水はチョコレート色に濁り、市内河川は悪臭に満ちていました。底生動物はごく少数の汚濁指標種がきわめて優占的に高密度で生息するか、無酸素となって無生物になるかという極端な状態でした。と同時に大阪南港に建設された野鳥公園など環境を修復・復元しようという動きもあり、そのための調査を担当したことも印象に残っています。
40歳直前の学位取得をきっかけに水産庁養殖研究所(現、水産総合研究センター増養殖研究所)に移籍しました。移籍直後は長崎県にあった大村支所に勤務しましたが、まもなく三重県の本所に異動となり、養殖環境の評価や修復といったテーマに取りかかりました。養殖環境の改善を目的とした法律が制定される前後であったため、環境基準づくりの根拠となるデータ提供も大きな仕事となりました。また、三重の庁舎にはバブルのころに購入された質量分析計が未使用のまま放置されており、この高額器械の有効利用も任務となりました。生態学研究センターの中西正己先生の紹介でオーバードクターの山田佳裕さんに特別研究員としてきてもらい、機械を立ち上げることができました。以後、安定同位体分析を用いた養殖漁場における物質循環、環境対策に関する研究や沿岸の栄養構造の解析に大いに役立ちました。
昨年還暦を迎え、この3月で水産総合研究センターを定年退職しましたが、このたび突然の御縁により皆様の仲間に加えていただくことになりました。これまで、30歳、40歳、60歳と何度かの節目がありましたが、大学院以来、底生動物や底質から沿岸環境の評価や保全に関する調査・研究に携わることができたことを幸せに思っています。ただ、昨年の東北での大震災や近年の有明海の環境悪化に心が痛みます。自然には人間がどうしようもない大きな力があると同時に、人間のさまざまな活動が自然を傷めつけることもあります。自然への畏敬の念を取り戻し、循環的、持続的な社会を構築する必要があります。森里海連環学教育ユニットはその礎となる人間作りに大きな責任があり、私もその責任を果たすべく微力を尽くしたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
ニュースレター28号 2012年10月 新人紹介