森林資源管理学分野 教授 吉岡 崇仁
2013 年のフィールド研創立10 周年を記念するプレシンポジウム「流域研究と森里海連環学」を2012 年12 月2 日(日)に京都大学百周年時計台記念館2 階の国際交流ホールで開催した。このシンポジウムは,森里海連環学教育ユニットと共催し,京都府教育委員会と京都市教育委員会の後援,公益財団法人日本財団からの助成および,生物地球化学研究会,NPO 法人エコロジー・カフェ,NPO 法人シニア自然大学校,フィールドソサイエティーからの協賛を受けたもので,2003年に発足したフィールド研が提唱してきた森里海連環学の成果を報告するとともに,全国の「流域研究」と比較しながら今後の方向性について検討した。参加者は,約200 名であった。
第1 部の「流域研究の今」では,5 つの河川流域での事例が紹介された。「矢作川流域」(講演者:豊田市矢作川研究所 間野隆裕総括研究員)では,流域環境の保全に関する地域住民の活動が活発であったことからそれら諸団体との連携が進んでいる事例が紹介された。「天塩川流域」(北大北方生物圏フィールド科学センター 上田宏教授)では,サケの母川回帰が,河川水中のアミノ酸組成がニオイとなって母川の識別に使われていることが紹介された。さらに,「太田川流域」(広島大学生物圏科学研究科 山本民次教授)では,太田川-広島湾の環境保全,再生計画について,地方自治体等を含む取り組みが紹介され,間伐や複層林化による森林整備,カキ殻を硫化水素やリンの吸着材として利用する例など興味深い事例が話された。
続いて,フィールド研が推進している「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業(略称:木文化プロジェクト)」の成果を紹介した。「仁淀川流域」では,間伐施業が森林,河川生態系に及ぼす影響や地域社会の経済や文化に与える影響を総合的に調査していることを紹介した。「由良川流域」に関しては,土地利用と河川水質の関係,とくに硝酸態窒素,溶存鉄に関する調査結果が報告されたほか,河口域での水の動きのモデル化と生態系モデル開発について紹介した。また,国産材に関する人びとのイメージなど社会調査に関しても話題を提供した。
会場では流域研究に関わるNPO 法人のパネル16 面や「木文化プロジェクト」の成果がポスターで展示され,学会並みの盛況さであった。一般参加者だけではなく,われわれ研究者にとっても「森里海連環学」についての理解が深まったという印象の強い有意義なシンポジウムであった。
年報10号 2013年11月 p.4
(参考)イベント案内ページ