森里海連環学教育研究ユニットを開設

 2018年4月1日、学際融合教育研究推進センターに「森里海連環学教育研究ユニット」を開設し、事務を担当する「森里海連環学教育研究ユニット事業推進室」を設置しました。森里海連環の健全性を評価し、生態系が劣化するメカニズムを理解するところから、その連環の修復方法を提言する研究プログラム「森里海連環再生プログラム(Link Again Project)」を実施します。また、これまで5年間開講してきた森里海連環学教育プログラムを継続して実施します。学内の連携部局は、フィールド研と大学院農学研究科、地球環境学堂・学舎、人間・環境学研究科に加え、生態学研究センター、総合生存学館の6部局となりました。共同研究には、北海道大学、国立環境研究所などの研究者も参画します。ユニット長には山下洋教授が就任し、研究プログラム長は伊勢武史准教授、教育プログラム長は吉岡崇仁教授です。2012年度から3期6年活動してきた「森里海連環学教育ユニット」および「森里海連環学教育ユニット支援室」は、本ユニットおよび事業推進室に発展継承されました。

(報告)

「森里海連環学教育研究ユニット」を開設

森里海連環学教育研究ユニット長 山下 洋

 森里海連環学教育研究ユニットは,2017年12月に始まった「森里海連環再生プログラム(LAP:Link Again Program)」を実施するために,(公財)日本財団の研究助成金をもとに,京都大学学際融合教育研究推進センターに2018年4月に設置された。本ユニットは,2012年4月から2018年3月まで,日本財団との共同事業である「森里海連環学教育プログラム」の運営を行った「森里海連環学教育ユニット」の後継ユニットである。新ユニットは京大フィールド科学教育研究センターを事務局とし,農学研究科,人間・環境学研究科,地球環境学堂,総合生存学館,生態学研究センターから構成され,LAP 事業には北海道大学大学院水産科学研究院と国立環境研究所も参画する。LAP 事業に加えて,助成金によらない事業として,京都大学の全大学院生を対象とした森里海連環学教育プログラムを運営する(図1)。

 この事業では,以下の4つの目標を掲げている。

①調査対象とした河川の水系ごとに流域の多様な要因と河口・沿岸生態系(水圏環境,生物多様性,生物生産力)との関係を解明することにより,森里海の連環度評価手法を開発する。
②この手法を日本全域に適用して森里海連環度の評価結果を「見える化」する。
③地域と連携してそれぞれの地域の問題点を探り出し,森里海連環を基盤に地域の再生に貢献するとともに,豊かな川と海を再生するための具体的な流域管理方策を提言する。
④森里海連環の修復に向けて市民と協働し,イノベーティブな社会運動として展開するための基盤づくりをめざす。

 4年間の研究計画は以下の通りである。
 自然科学班は,河口・沿岸域の環境と生態系(目的変数y)に対する流域の土地利用や人間活動(説明変数x)の影響〔y=f (x)〕を明らかにするため,全国規模で普遍的なxとyとの関係(f)を調べ,xからyを予測できる森里海の連環度評価手法を開発する。森里海の連環度評価手法を日本全域の河川に適用し,日本全体の現状を「見える化」する。また,社会科学班がフィールドとする地域において,社会科学班と協力して森里海連環にかかる地域の問題を特定し,修復・再生の方法を検討して提案する。社会科学班は,すでに関係を構築している地域を中心に,森里海連環につながる問題点を探索し,分断要因の特定とそれによる社会的費用推定法の開発を進め,解決にむけた取り組みを開始する。特定された分断要因を自然科学班に伝え,自然科学的な解釈を求める。自然科学班からの森里海連環の修復に関する助言を検討し,政策提言に反映するとともに,市民と協働して地域の再生をめざすイノベーティブな社会運動を展開する。
 前期(2018・2019年度)には,沿岸域の環境・生物多様性・生物生産力と森里海連環との関係の解明と,社会実装のための地域との連携基盤の構築をめざす。九州から北海道まで,国内32の河川流域および社会実装のためのいくつかのフィールドにおいて,以下の8点を検討する(図2)。

①河口をふくむ沿岸域の環境(藻場・溶存酸素),生物多様性(環境DNA分析),生物生産力(衛星画像解析)を測定する(海チームy:生物多様性グループ,漁業生産・環境グループ,基礎生産グループ)。
②沿岸域に影響を与える可能性がある陸域のあらゆる環境,利用構造,生態系データを収集する(陸チームx:時空間情報・GIS解析グループ,時空間情報・データ統合解析グループ)。
③河口・沿岸域の環境,多様性,生産力を説明できる陸域の要因を探索し,森里海の連環度を評価する手法を開発する(解析チームf:確率推論グループ,物質循環グループ)。
④森里海の連環と沿岸環境,多様性,生産力との関係のメカニズムを解明する(生物多様性・生態学的メカニズムグループ)。
⑤森里海の連環度(分断の程度)が地域(人間)社会に与える影響を評価する手法を開発する(社会チーム:影響評価グループ)。
⑥森里海連環の分断による地域の問題点を抽出し,解決にむけた取り組みを開始する(社会チーム:政策形成グループ)。森里海連環に関する地域住民参加型の調査や市民と連携した地域活動の基盤を構築する(社会チーム:社会連携グループ)。
⑦森里海連環の整備と防災との関係について予察的研究を行う(社会チーム:防災研究グループ)。
⑧社会科学班を中心に,森里海連環を基盤とした持続的な社会の構築に貢献できる人材を育成する。自然科学班も人材育成活動をサポートする。

初出:森里海連環学教育研究ユニット年報『森里海』1 号 p.30-31)

年報16号 2018年度