「東京で学ぶ 京大の知」

沿岸資源管理学分野 准教授 益田 玲爾


 2011年1月から2月にかけて,京都大学東京オフィスにおいて,連続講演会「東京で学ぶ京大の知」シリーズ2~生きものの多様な世界~が開催され,フィールド研から4人の教員が話題を提供した。講演会の主催は京都大学,後援は朝日新聞社であり,各講演に関する詳しい紹介記事は,本学および朝日新聞社のホームページにも掲載された。
 初回の1月15日には,瀬戸臨海実験所の久保田信准教授が「人類の夢,不老不死のベニクラゲの神秘」と題して講演した。講演ではまず,地球上の多細胞動物が140万種にもおよび,現在これらは40の門に分けられていること,そのうち多くが海洋に生息することなどを話した。続いて,同准教授が研究を進めているベニクラゲの生活史について紹介した。自作の「ベニクラゲ音頭」を歌い,またDVDを上映するなど,視聴覚機材を駆使したプレゼンテーションとなった。
 第2回の1月29日には,筆者(益田)が「海洋生物の行動学」と題して話した。舞鶴湾で行っている毎月2回の定例潜水調査の結果から,魚の種類や個体数が水温と対応して増減していること,30年前の調査に較べると南方系の魚種が増えたこと,さらにはクラゲに寄生する魚やクラゲを捕食する魚などに関する最近の研究成果について紹介した。若狭湾の各地で出会った水中の様々な生物についても,水中写真を示すとともに,その生態や料理法にまつわる話題などを提供した。
 第3回の2月5日は上賀茂試験地の安藤信准教授が「マツ枯れナラ枯れ」と題して講演した。1970年代後半から猛威を振るったマツ枯れと,90年代以降に急速に拡大したナラ枯れによって,日本の森林景観はこの30年間に大きく変化した。その被害の実態と防御の試み,そして森林再生への取り組みについて紹介した。
 最終回の2月12日は,瀬戸臨海実験所の白山義久教授(当時)が「海洋生物の生物多様性」と題して講演した。生物多様性条約のCOP10が昨年10月に名古屋で開催され,多様性の重要性が広く世間で認知されるようになった。こうした動きに先駆け,10年前から80カ国2700名の科学者の協力により進められてきたCENSUS of Marine Lifeの結果がこのほどまとめられた。白山教授は同プロジェクトを通して映画「オーシャンズ」の監修にもたずさわっており,これについても紹介した。
 京大の東京オフィスは品川駅港南口を降りてすぐの高層ビルの27階にあって,講演会を随時開催している。また,休憩室からの眺望は素晴らしく,東京湾が一望できる。「京大の知」と題したシリーズは2度目の試みであり,本シリーズの直前には文学部の教員らが中心となり「王朝文学の世界」という講演会が行われた。
 講演に際しては,本学と朝日新聞社のホームページで聴講者が募集されたほか,朝日新聞社の紙面でも広報および報告が行われた。毎回100名程度の聴講者があり,年齢層としては60代,職業は会社員または退職者が多く,男女比は2:1程度である。京都大学の出身者や,マスコミの記者,出版社の編集者の来聴も多く見受けられた。講演直後の質問やアンケートに見られる質問やコメントには,高度に知的なものが多かった。

年報8号  2011年12月 p.8

(参考)イベント案内ページ(各回内容報告等へのリンクあり)