第21回公開講座

里山資源保全学分野 准教授 長谷川 尚史

 芦生公開講座は1991年に開始され、2泊3日の日程で一般市民を対象に、初日と3日目に講義、2日目に芦生天然林の観察・解説と簡単な調査方法の実習、という形態で続けてきた。公開講座開始当初は定員の数倍の申し込みがあったが、近年は定員割れすることもあるなど、マンネリ化の声があがっていた。21回目となった2011年度の公開講座の企画を立案するにあたっては、芦生公開講座の開催意義を今一度見直し、第三回(平成5年)より継続してきたメインテーマ「森のしくみと働き(役割)」を刷新することも視野に入れ、新たな企画を検討した。検討の最中、東日本大震災が発生し、震災直後に被災者の皆さんが緊急時の暖房用に森林から薪を取るなど、森林資源と我々の暮らしとの繋がりを再認識した。そこで新たなテーマを「今、森から考える」とし、現代社会と森林との関係についての解説を通して、各参加者にこれからの社会での森林と人との関係を考えていただくことを、今後当面の大きな目的と設定した。
 また一方で、若人の参加を促進することも重要であると考えた。公開講座開催期間は学休期間にあたり、中高校生が参加しやすい時期であるにもかかわらず、これまで若年層の参加者は少なかった。これからの社会を考える上では、感受性の高い若い年代にも参加していただき、公開講座を通して森林について考えてもらう機会を提供するのが、フィールド研の使命のひとつであると考え、本年は中高校生枠を創設し、芦生研究林の学生実習施設を利用して比較的安い参加費で公開講座に参加していただけるような枠組みを構築した。さらに、長年同じデザインであったチラシ、ポスターのデザインも一新し、配布先の再検討を行ったほか、市内の登山用品店等にも掲示していただいた。配付テキストも受講料に見合う形で充実させ、受講者の満足度が高く、かつ教育効果の高い公開講座の開催を目指した。
 本年はその一回目として、副題を「森のめぐみ」と設定し、現代社会が森林資源からいかに多様な「めぐみ」を享受しているか、また来るべき未来社会の中で、その「めぐみ」をどのように活かしていく社会を実現するべきか、考えてみることとした。私たちが森から与えられている「めぐみ」は多種多様である。その中から今回は「川」、「癒し」、「バイオマスエネルギー」、「茅葺き」をピックアップした。講師は、「川」はフィールド研研究員の福島慶太郎氏と地球環境学舎博士課程の境優氏、「癒し」は今西二郎京都府立医大名誉教授(現明治国際医療大学教授)、「バイオマスエネルギー」は坂志郎京大エネルギー科学研究科教授、「茅葺き」は深町加津枝京大地球環境学堂准教授に、それぞれお願いした。
 一般者の定員30名のところ、44名の応募があり、うち36名を当選者とした。また新聞等の取材の申し込みが3件あり、後援団体であるNPO法人エコロジー・カフェからも4名の参加者があった。中高校生枠にも多数の問い合わせがあったが、夏休み最初の週末で夏期講習などの学校行事が予定されていることが多く、最終的には1団体3名の参加となった。その後、キャンセル等もあったが、最終的には41名という近年にない多くの方にご参加いただいた。
 いずれの講義も非常に示唆に富んだものであり、受講生の方々も多くのインパクトを受けていただけた様子であった。二日目の研究林内見学では、今年は新たに健脚者向けに櫃倉谷コースを用意したが、これが大人気であった。また、三日目には美山町北地区で伝建地区である茅葺きの里を見学し、中野文平氏(前南丹市文化財保護審議員)の講話をいただいた。この企画も受講者からは大変好評であった。以上のように、今回の公開講座は、いつもにも増して盛りだくさんの内容であったこともあり、実りの多いものとなったと自負している。これを支えたスタッフの皆さんに改めて感謝申し上げたい。

年報9号  2012年10月 p.9

(参考)イベント案内ページ