新人紹介 朝倉 彰

海洋生物多様性保全学分野/瀬戸臨海実験所長 朝倉 彰

ASAKURA Akira

 1月1日付で瀬戸臨海実験所に参りました。
 私はこれまで海洋生物とその多様性をキーワードとして、無脊椎動物、特に甲殻類を中心に個体群動態、群集構造の解明、動物行動学、系統分類と進化、生物地理等を基盤とするグローバルかつ歴史的なプロセスも含めた総合的な視点からの研究を行ってきました。前任地は神戸大学の理学研究科の生物多様性講座です。もともと大学の卒論生であった時代から大学院時代を、ずっと臨海実験所で過ごしてきましたので、新しく着任したというよりは、まるで古巣に戻ってきたような感覚です。この瀬戸臨海実験所にも、自分が修士課程のころから、採集やセミナーなどでお世話になってきましたので、なにか不思議な感じがあります。
 私の研究は生物学の中でもいわばマクロ系の研究分野の最たるものでありますが、現在はこうした分野は生物学の中でも、日本の全国的にもそして世界的にも研究室の数が次第に減りつつあり、それがひとつの問題ともなっています。と言いますのも、今は地球規模での環境問題と生物多様性の危機などが叫ばれる時代でありますが、世界のさまざまな海域で最新の機器を用いて新しい採集調査が行われるたびに、おびただしい数の未記載種がみつかっています。私が特に専門としている十脚甲殻類(エビ、カニ、ヤドカリ)は、研究が進んでいると思われていますが、それですら現在の未記載種の発見の速度から外挿すると、地球上に生息している種の2~3割くらいしか発見されていないと思われます。つまり研究という立場からいえば、まだ多様性の実態が把握しきれていない未成熟な段階にあります。ましてや、生態学的手法を応用しての保全の問題は、まだまだ夢のように遠い先にあり、し
かしその一方で人為的な影響による海洋環境の変化は急激なものがあります。
 われわれが生物というものの実体をこの世界の中でとらえるとき、それはそこに生息している生態的な状態としてとらえます。そこから研究はスタートし、生命の謎の解明にむかって研究が進んでいき、その奥へ奥へと行ったときにミクロな生物学の分野へと研究は進みます。しかしそこで解明された生命現象のあり方は、結局はこの世界にその生物が存在している意味へと還元されます。そのような意味において、マクロ生物学はあらゆる生物学の出発点であると同時に、最終的に到達すべきところであると思っています。また先に書きましたように、生物多様性の研究は地球環境の問題とともに現代的な、そして重要な応用的側面をももった問題であります。
 このような認識の下、この瀬戸臨海実験所においてこの分野の研究を推進してまいりたいと思っております。また京都大学は、全国的にみておそらく最もマクロ系の生物学の研究がさかんな分野であると思いますし、関係するさまざまな研究室の皆様とも交流させていただければと思っております。フィールド研の皆様におかれましては、なにとぞよろしくご指導とご鞭撻を賜れば、幸いに存じ上げます。

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ニュースレター26号 2012年3月 新人紹介