基礎海洋生物学分野 朝倉 彰
海洋生態系部門では、海洋を主として、そこからさらに河川・湖沼まで含めた水圏における生物の、分類学・進化生物学・発生生物学・生理生態学・生物地理学といった様々な基礎生物学的領域から、環境生物学や保全生物学といった応用的な領域まで、教育研究活動を広範囲に展開している。
森里海連環学の立場からいえば、沿岸域の生態系は、陸域や河川からの物質の流入によって強い影響を受け、特にそれをささえる一次生産と密接に関連している。また河川回遊性の魚類や甲殻類のように、海洋と河川を行き来する動物がいて、生物相のつながりがあるほか、干潟生態系のように、陸上と海洋の境界域に発達する場もあり、密接な連環がある。
本部門は、基礎海洋生物学分野と海洋生物環境学分野の2つの分野から構成される。
基礎海洋生物学分野は瀬戸臨海実験所を教育研究の拠点とし、協力講座として理学研究科に海洋生物学分科を提供している。瀬戸臨海実験所では、伝統的に海産無脊椎動物の分類・系統・生態学を中心とした、海洋生物の多様性と進化プロセスを解明するための自然史研究を行っている。系統分類学的研究として、形態・分子レベルにおける系統と分類学の研究、および生物地理や地史をも含めた、系統地理学、進化学的研究を進めている。進化・多様性に関する研究としては、比較形態学的研究や、発生生物学、分子生物学的手法による形態形成のメカニズムを解明する研究を行うとともに、海洋生物の多様性を保全するために、多様な生物が環境の変動に対してどのように反応するのかを明らかにするべく、研究を行っている。
海洋生物環境学分野は農学研究科からの時限の流動分野である。海洋をはじめ、湖沼や河川を含む水圏における、持続的な生物生産をもたらす水圏生態系の仕組みや、その変動機構ならびに水圏生態系に生息する魚類や海産ほ乳動物などの行動生態を研究している。そのための手法として、安定同位体分析、生態系モデルによるシミュレーションならびにバイオテレメトリーやマイクロデータロガーによるバイオロギングを用いた研究を行っている。
今後の展望として、沿岸域は、陸域と海域の接する場所であり、近年の人間活動によって環境破壊が著しく、特に海洋汚染の最大の原因ともなっている。本部門の基礎的および応用学的研究が、こうした問題の解決にむけて貢献することが期待される。
ニュースレター31号 2013年11月