海岸に生息するカエル(両生類)の研究

基礎海洋生物学分野(白眉センター) 原村 隆司

 カエル(両生類)といえば、我々にとって昔から身近な生物で、芦生研究林で鳴き声を聞けるカジカガエルは、万葉集でもその美しい鳴き声に関する歌が詠まれています。カエルの産卵場所としての我々のイメージは、やはり田んぼや湿地などの淡水域です。しかし、世界的にみると、カエルは砂漠や雪が降るようなとても寒い場所にも生息し繁殖しています。私がこれまで研究を行ってきたリュウキュウカジカガエル(カジカガエルに系統的に近い種類)は、海岸で生活、繁殖している興味深いカエルです。
 ビーチをピョンピョン跳ねているこのカエルが、どのように海岸環境に適応しているのかを、動物行動学の視点から調査してきました。特に私がターゲットとしたのは「雌の産卵場所選択行動」です。両生類の卵は塩分にとても弱く、「卵を塩分からどのように守るか」が、このカエルが海岸で繁殖するうえで最も重要だと考えたからです。
 調査場所は沖縄県の北部、山原地域のまだ人手の入っていない海岸です。満天の星空の下、卵を産みそうな抱接個体を一晩中追跡したり(カエルは基本的に夜、活動します)、琉球大学の与那演習林(現在は与那フィールド)で実験を行ったりと、動物行動学で用いられる手法をフル活用して調査を行ってきました。その結果、雌は、「水中の塩分濃度の違いを識別でき高塩分を避けて産卵場所を選択すること」、「潮汐の影響も考慮に入れた産卵場所選択を行っていること」等が分かりました。卵はもちろん自ら動けません。そのため、雌の産卵行動のみが、卵を高塩分から防ぐ唯一の手段です。これら雌の産卵場所選択行動が、このカエルが海岸環境でも繁殖できる原動力になっていることを確認しました。更におもしろいことに、塩分を感知する能力は、まだ卵の中の幼生もすでに持っており、塩分濃度に応じた孵化行動の可塑性(周りの塩分濃度が高いと早く孵化する)なども分かってきました。
 このリュウキュウカジカガエルの塩分適応に関する研究は継続しており、塩分に対する浸透圧調節機構なども調べています。しかし現在は、外来種オオヒキガエルに関する調査に力を入れています。まだ原因は分かっていませんが、オオヒキガエルは、石垣島や小笠原諸島、ハワイなどの島嶼(とうしょ)でうまく定着できています。この理由として、「他のカエルと比べてオオヒキガエルは塩分耐性が特に強いのでは?」と考えています。リュウキュウカジカガエルやオオヒキガエルと、今後も海に関係するカエルの謎を解き明かしていきたいと思います。

ニュースレター37号 2015年11月 研究ノート