基礎海洋生物学分野 助教 後藤 龍太
2023 年12 月23 日から2024 年4 月7 日にかけて京都大学白浜水族館にて企画展「絶滅のおそれのある海の生き物展〜和歌山県レッドデータブックでひもとく」を開催しました。開期中の来館者数は、合計31,487 人です。冬休み・春休みに多くの方に展示を観ていただけました。
「レッドデータブック」とは、レッドリスト(絶滅の恐れのある生物や絶滅した生物のリスト)の掲載種についてその生態や生息状況等を取りまとめ編纂した書籍です。和歌山県では『保全上重要なわかやまの自然:和歌山県レッドデータブック』として2001 年に初版が発行され、2012・2022 年に改訂版が発行されました。2022 年改訂版の掲載生物の総種数は1,655 種で、多くの種が写真とともに分かりやすく掲載されています。そして、本改訂版では、これまでの版では掲載されてこなかった海や汽水域に生息する絶滅危惧種・絶滅種(貝類、その他の無脊椎動物、魚類など)が新たに追加されました。しかし、これらの生物のほとんどは、多くの方にとって馴染みの薄いものだと思われます。本改訂版の執筆に参加していたことや、絶滅危惧種を多く含む干潟の生物を普段から研究していることもあり、是非多くの方にこのレッドデータブックに掲載されている海洋生物とその魅力を知ってもらい、そして、その生息環境が失われつつある現状や保全の必要性についても知ってほしいと思い、本企画展を立案し、和歌山県自然環境室や和歌山県立自然博物館等の協力の下、実施しました。
展示では、歴代の3冊の和歌山県レッドデータブック、80 点以上の絶滅種・絶滅危惧種の標本、レッドデータブックの内容・意義や掲載生物の紹介パネル、絶滅危惧種の生態紹介の6分間の動画などを設置いたしました(図1、2)。また、玉石海岸の間隙に生息する準絶滅危惧のオオミミズハゼの生体展示も行いました。標本は、絶滅危惧ランクごとにカテゴリー分けして展示しました。例えば県内の絶滅種ではニホンアシカ、カブトガニ、アオギス、オカミミガイ等、絶滅危惧I 類ではシオマネキ、ユウスイミミズハゼ、ワカウラツボ、スナウロコムシヤドリガイ等、絶滅危惧II 類ではハマグリ、クシテガニ等、準絶滅危惧種ではヘナタリ、シオヤガイ等、情報不足ではサナダユムシ、ミドリシャミセンガイ類等、学術的重要ではハチザクラ、ベニシオマネキ等です。絶滅種や絶滅危惧種の標本・写真は入手が難しいものが多く、本企画展を開催するにあたり、和歌山県立自然博物館、奈良女子大学、大阪市立自然史博物館などの各機関や約30 人以上の方々から貴重な資料や写真、標本提供、採集等のご協力をいただきました。フィールド研別施設の舞鶴水産実験所の甲斐先生・邉見先生、北海道研究林の杉山先生にもお世話になりました。心より御礼申し上げます。また企画展実施にあたり、開催委員に加わっていただいた下村通誉館長・白浜水族館技術職員の皆様にもお世話になりました。パネル準備・設営等に加えて、下村館長にはシオマネキ標本の作成(図3)、加藤哲哉さんにはスナウロコムシヤドリガイ標本の作成、山内洋紀さんには標本搬送や絶滅危惧魚類の展示、原田桂太さんには企画展ロゴ作成などを担当していただきました。
企画展の開催中は、県内の絶滅種であるニホンアシカやカブトガニの標本の前に子供達が集まってきて興味深そうに見ている様子がよく見られました。また、干潟の有名なカニであるシオマネキ(図3)が県内では絶滅の危機に瀕していると知って驚かれる方もおられました。その他、サナダユムシやマゴコロガイ、シタゴコロガニなど、他ではなかなか観られない珍しい海の生物の標本やその生態動画も興味深く見てもらえたように思います。展示脇に和歌山県レッドデータブックを配置したところ、実際に手にとって読んでくださっている様子がよく見られました。本企画展は、紀伊民報・毎日新聞、和歌山テレビなどで取り上げてもらえました。この企画展が和歌山の海の豊かな生物多様性の理解や保全に繋がることを願っています。
年報21号 2023年度 主な取り組み