センター長挨拶

京都大学フィールド科学教育研究センター長 朝倉彰

asakura2021

 地球規模での環境問題とそれに伴う生物多様性の減少、そしてそれらが人間の将来の生活にとって重大な影響を与える時代にあり、人間活動が自然に与える影響と自然のあり方についてフィールドワークを通じて実地で学び研究することは、そうした問題を理解する重要な今日的意味を持ちます。そういう場を活用した若手人材育成は、地球環境問題に長期的に取り組むために必須であります。

 フィールド科学教育研究センター(以下「フィールド研」)は、2003年に全国にある京都大学のフィールド研究系の施設を統合して設立され、異なる生態系のつながりと相互作用を科学する森里海連環学を標榜して多種多様な研究と教育を展開してきました。森林系として北海道の標茶町と白糠町、和歌山県有田川町、京都府の南丹市美山町、里域系として京都市の北白川と上賀茂、山口県の周南市、和歌山県の串本町、海域系として和歌山県の白浜町、京都府の舞鶴市にそれぞれ施設があります。これらを合わせた、フィールド研の所有する土地は広大で、京都大学が所有する土地の90%にも及びます。また和歌山県に社会教育施設である白浜水族館があり年間9万人の来館者があります。さらに森里海連環学教育研究ユニットを持ち、森・里・海のつながりを総合的に研究するプロジェクト「RE:CONNECT」を展開しています。

 フィールド研の教育研究部は、これらの施設を基盤として、研究推進部門、森林生態系部門、里域生態系部門、海洋生態系部門の4 部門、7 分野から構成されます。研究内容として、森里海連環学をキーワードとして隔地施設のフィールドを活かした森林生態学、森林管理学、生物地球化学、里域から沿岸域にかけての人間-自然相互作用環解明の研究、人間-自然共生システム構造の研究、生物多様性を基軸とする系統分類学、生態学などの自然史分野の研究や、環境DNAやDNAバーコーディングによる多様性モニタリング、環境と生物の関係の長期モニタリング調査などが展開されています。その成果は国の内外で高く評価されています。

 教育活動としては、学部教育において全学共通科目の統合科学科目群 森里海連環学分野での多数の講義やILASセミナー、農学部や理学部に対する多様な授業や隔地施設のフィールドを活かした実習を実施しています。大学院教育では、農学研究科と理学研究科、地球環境学舎の協力講座があり、多数の大学院生が学び、フィールドワーク系の研究を行って修士号、博士号を取得しています。5施設(3拠点)が文部科学省から教育関係共同利用拠点に認定され、隔地施設とそのフィールドを全国の大学生、大学院生の教育と研究の場として公開し活用しています。拠点活動には3つの柱があり、「公開実習」では全国の大学生を対象としたフィールド実習を、「共同利用実習」では全国の大学の実習科目を実施しています。「共同利用研究」では卒業論文や大学院の修士論文や博士論文を隔地施設とフィールドで行う支援と指導をしています。また高校のSSH(次世代人材育成事業)なども多く受け入れています。

 今日のデジタル技術の著しい発達の中、我々の生活も大きく変わりつつあります。しかしデジダル技術がどんなに発達しても、本当の自然に出て五感でそれを感じることに勝ることはできないでしょう。日本列島は東西にも南北にも長いため、様々な気候帯を含みます。また地形的には、平地もあれば高い山脈もあり、大きな湖もあり、大小様々な島もあり、自然のあり方が多種多様です。したがって日本の各地をフィールドとした研究は、様々な環境のモデルケースとして考えることができます。そのためそこでの研究成果は、世界の様々な気候帯と地形の場所への環境問題への応用が可能でしょう。デジタル技術が発達すればするほどに、自然とそこに住む生物の実態に根ざした研究は重要性を増し、人間と自然の共存の持続可能な開発と地球環境問題の解決へと貢献すると考えられます。そしてそこに我がフィールド研の教育と研究の意義もあります。多くの研究者、学生、自然に興味がある方々が、フィールド研の隔地施設を利用され、研究と教育の場としていただくことを願ってやみません。

(センター長就任の挨拶 2021年4月)

過去のセンター長就任挨拶はこちらからご覧頂けます
2019年 德地直子
2017年 山下洋
2013年 吉岡崇仁
2011年 柴田昌三
2007年 白山義久
2003年 田中克