実習報告2011「公開森林実習 近畿地方の奥山・里山の森林とその特徴」

「京都大学の施設で学ぶ~京都大学公開森林実習 近畿地方の奥山・里山の森林とその特徴」
実施報告書

京都大学フィールド科学教育研究センター 里域生態系部門 柴田 昌三


1.実施日
 平成23年9月5日(月)~7日(水):2泊3日
 本実習は、全国大学演習林協議会による公開森林実習と,人間環境大学の独自科目(フィールドワーク)および京都学園大学の独自科目(フィールドワーク)を合同で行う形式で開催した。

2. 実施場所
 (宿泊)京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林
 (実習)上賀茂試験地、芦生研究林、北白川試験地

3. 実施の目的
 近畿地方中北部における里域から森林にわたる多様な自然や森林景観の特徴について基礎的知識を得ることを目的とする。

4. 実施の内容
 上賀茂試験地に集合し、初日は同試験地において近畿地方中部の里山の特徴を有する都市近郊林の天然植生とナラ枯れ・マツ枯れ被害および、マツ類・タケ類を中心とする外国産樹種とその特徴について、講義と実地見学を通して学ぶ。バス等で芦生研究林に移動し、2日目は日本海側の多雪地帯の要素を有する原生的森林植生とナラ枯れ・シカによる食害による植生の変化、由良川源流域での流下過程における水質変化について講義と実習を行う。3日目は南丹市美山町北地区の伝統的建造物群(茅葺き集落)、北山林業地における資料館等、北白川試験地のj-pod(地域産材を使用し工場で生産したリブフレームによるモノコック構造物)等を巡り、森と人との関わりを実地体験した後、レポート作成を経て同試験地で解散する。

5. 実施スケジュール
一日目(9月5日)
 12:45 上賀茂試験地に集合・受付
 13:00 実習全体のガイダンスおよび上賀茂試験地の概要説明
 13:30 里山近郊二次林・マツ林・ナラ枯れ被害・マツ枯れ被害・標本等の見学・解説
 16:30 上賀茂試験地出発 途中で食材を調達
 19:00 芦生研究林到着 夕食・入浴後、講義とディスカッション
 22:00 就寝

二日目(9月6日)
 7:00 起床後朝食
 8:30 林内に出発
 9:30 芦生研究林上谷周辺の天然林の観察およびシカ防護柵プロットの見学
    由良川上流部および湿地の水サンプルの採取
 12:30 長治谷にて昼食(弁当)
 13:30 長治谷作業所にて水サンプルのパックテストおよび解説
 15:00 下谷周辺の天然林および人工林の観察
 16:00 宿舎帰着 入浴と夕食準備
 18:00 夕食と意見交換会
 23:00 就寝

三日目(9月7日)
 7:00 起床後朝食
 8:30 芦生研究林出発
 9:00 南丹市美山町北地区伝統的建造物群の見学
 10:30 北山地域の人工林および北山木材組合(京都市北区)展示館の見学
 12:00 野外で昼食(弁当)
 13:30 北白川試験地着,北白川試験地の見学およびj-podの見学・解説
 14:30 レポート作成
 15:15 北白川試験地で解散

 ★各研究林・試験地間の移動は芦生研究林の車両を利用

6. 成績評価
 アンケートとレポートを課し,実習中の受講態度と合わせて成績を評価した。参加学生のうち1名は京都大学特別聴講生の登録を行っており、大学事務を通して正式に単位を発行した。他の学生には、京大フィールド研センター長名の受講証明書(成績評価付)を発行した。

7. 参加者
・特別聴講生:1名(宇都宮大学2回生1名)
・一般聴講生:4名(筑波大学2回生2名,信州大学3回生1名,新潟大学4回生1名)
・共同利用実習による参加者:6名(人間環境大学1回生3名・3回生1名,京都学園大学1回生1名・4回生1名)
 計11名(男性4名,女性7名)

8. 経費
 参加学生に対し、芦生研究林における食事代(朝昼夕各1食ずつ)およびシーツ使用料金、計3,600円を請求。その他の食事は各自,店で個別に購入させた。上賀茂試験地までの往路、北白川試験地からの帰路の交通費は、各自の実費負担とした。
 芦生研究林の車両を用いた移動に要したガソリン代は芦生研究林で負担し、またパックテストに用いた試料はフィールド研が負担した。

9. 問題点・改善点・その他(学生に対するアンケート結果)
(主催者側の感想)
 昨年度も同様の実習を企画したが、特別聴講生のみの募集となり、募集締め切りが2月で早かったために応募者がなかったことから、急遽、人間環境大学および京都学園大学との共同利用実習という形態で開催した。本年度は、この共同利用実習の形態を引き継ぎながら、特別聴講生を募集すると同時に、特別聴講生の締め切り後も一般聴講生の募集を継続したことにより、特別聴講生1名、一般聴講生4名、共同利用実習生6名と、多くの学生が参加した。特別聴講生は正式に単位が認められるが、一般聴講生は受講証明書を所属する大学に持ち帰り、単位を認定できるか個別に協議してもらう必要があるため、あまり良い制度とは言えないが、特別聴講生の登録のためには、募集を2月時点で締め切らざるを得ないことから、次年度もこのような形態を持続する形になると思われる。学生の要望を聞きながら、よりよい制度整備に向け、大学と調整していきたい。
 また、実施時期も学休期でないと学生が集まりにくいが、この時期は学内の実習も多く開催されており、調整が困難である。他の実習と合わせ、時期の分散も検討していく必要があると思われる。
 さらに、今年度は特に森林系学生(2~4回生)と一般学生(1~4回生)の混合実習となり、知識レベルに大きな差があった。一方で、様々な立場の学生が参加することにより、学生にとっては大きな刺激ともなったようである。今後も、このような大学間差や教育内容の違いに基づいて起こる現象を注視し、その教育効果を検討しながら、実習開催形態の改善を図っていきたい。

(受講生の感想)
<森林系学生>
・上賀茂・芦生・北山と、全く異なる森林を自分の目で見ることができ、勉強になった。一つの研究林で様々なものがあるのはうらやましい
・以前から京都の林業に興味があったので、特に北山林業資料館に行けて良かった
・海外のマツやナラ枯れ被害、シカの食害、さらに茅葺きなど里山・奥山資源の利用も見ることができて、大変良い経験になった
・上賀茂の山はもう少しゆっくり見たかった
・森林生態系と人間の関係について深く考えさせられた
・実習に参加したみんなにまた会いたい
<一般学生>
・水に関する興味が大きくなった
・他大学の学生と交流するのが、一番の目的だったので、大変良かった。特に農業系統を専門とする学生とは話が進んだ
・他の大学の学生とも交流できて、刺激を受けた
・自分の所属する大学の良いところを最大限に活かしていこうと思った
・耳年増にならないよう、フィールドワークを大事にしていきたい
・知らない単語が多く出てきたが、頑張って勉強しようと思う
・また他の大学の人たちや先生方と一緒に勉強したい

(参考情報)
フィールド研公開実習(他の実習も含む)の案内ページ
公開森林実習 平成23年度 募集情報