新入生向け少人数セミナー(ポケット・ゼミ)

森林資源管理学分野 竹内典之


 少人数セミナー(ポケット・ゼミ)は、教員がフェイス・トウ・フェイスの親密な人間関係の中で、様々な形態の授業を行うもので、新入生の視野を広げ、人間・社会・自然について深く考える力を養成することを目的に、京都大学の全学共通科目として平成10年度から開講されている。
 フィールド科学教育研究センターでは、その設置目的の一つに、フィールド実習を中心とした全学の生物学教育の一翼を担うことを挙げている。平成15年4月にセンターが設置されて以来、少人数セミナーにも積極的に取り組み、平成15年度には5科目、平成16年度には11科目を提供してきた。
 平成16年度に実施した科目は以下の通りである。なお、()内は担当教員を示している。
1. お魚好きのための魚類研究入門(田川 正朋・中山 耕至)
2. 海の環境と沿岸資源生物(山下 洋)
3. 海辺から学ぶフィールド科学(益田 玲爾)
4. 海洋生物の多様性を探る(白山 義久)
5. 紀伊半島南部の里域生物相調査(白山 義久・梅本 信也)
6. 原生的な森林の働き(中島 皇)
7. 森林の更新と動態(安藤 信)
8. 道東根釧地方の自然(竹内 典之・梅本 信也)
9. 氷河期の大陸遺産-有明海の不思議な生き物たち(田中 克)
10.有機農業の可能性・・・持続可能な農業をめざして(西村 和雄)
11.里山資源の保全(竹内 典之・西村 和雄)
 ここでは、それらのうちから里域生態系部門河口域生態学分野 田川 正朋・中山 耕至が担当した「お魚好きのための魚類研究入門」の『報告』を紹介する。

少人数セミナー「お魚好きのための魚類研究入門」『報告』
 京都大学農学部において8回の講義を行い、フィールド科学教育研究センター舞鶴水産実験所において2泊3日の実習を実施した。実際に手を動かしながら、かつ議論しながら進める形式にするため募集人数を6名とした。農学部3名、理学部1名、医学部2名の6名が抽選により受講生となった。京都での講義は全員が皆勤であったが、舞鶴での実習は都合のつかなかった学生が1名、および突然の病気の学生が1名いたため、4名の参加であった。
京都での講義と実習(月曜4限)
第1・2回目:魚について考えられる限り多様な「問い」をブレーンストーミング様式で発してもらった。討論を行いながらこれらを魚類研究の学問分野に割り振りを行い、学問体系の雰囲気の把握を行った。
第3・4回目:小型魚類(ゼブラフィッシュ)を用いて、精子の運動や人工授精を観察した。つづいて実際に受精卵が卵割する瞬間を、各自に実体顕微鏡下で見てもらった。また、各自が受精卵を自宅に持ち帰り、排水や河川水中で発生する経過を観察した。翌週に全員のデータを集計し、データの分析法や結果の考え方について討論を行った。
第5・6・7回目:各自が釣ってきた魚、あるいはこちらで準備した魚を材料とした。検索表を用いた種名の決定法、外部形態の詳しい観察法のトレーニングを行った。さらに、解剖を行い、各種臓器の同定と大きさの測定、および胃内容物の観察も試みた。これらのデータとネットや文献による情報に基づき、その魚の「生き様」を推測する作業を各自に行ってもらった。データを教官がパワーポイントのファイルにまとめ、発表会形式で討論を行った。
第8回目:舞鶴での実習に備えてのガイダンス、魚の飼育に関する生理学的な基礎知識、 およびピーターセン法による資源量調査の基礎知識などを講義した。
舞鶴での実習(8月9日から8月11日)
 9日:午後12時半に現地集合。上野先生と佐藤船長のお世話になり、緑陽丸にて由良浜沖でケタ網採集を行った。5m、10m、20mの3深度で採集される生物相の差異を観察した。また、普段実物を目にする機会のない魚群探知機や海洋観測機器の説明を受けた。帰港後は益田先生に飼育施設の、甲斐先生に標本館の説明を受けた。夕食後には灯火採集により魚類仔稚魚の採集を試みるが、小アジが集まったのみであった。
10日:舞鶴の院生(建田、福西、牧野)に手伝ってもらい、神野浦漁港横の砂浜にてケタ網採集を行った。採れた魚類のうち、ヒメハゼおよびネズミゴチのヒレを切除して放流し、2時間後に再捕を試みた。採れた両魚種の全個体数およびヒレ切除個体数を計数した。
11日:宮津エネルギー研究所水族館(丹後魚っ知館)を訪問した。普段は見ることができない水槽裏側の設備や輸送トラック、繁殖水槽等を、飼育担当の吉田氏から詳しい説明を受けながら見学した。実験所に戻り、昨日行った資源量調査の計算と討論、およびこのゼミ全体のまとめなどの最終ミーティングを行い2時半ごろに解散した。
反省点など
 魚類研究「入門」を意識したため、普段は見ることのできないものを実際に見てもらうこと、および頭を使ってもらうこと、に主眼をおいて計画を立てた。受講生の反応などから、この点では十分に成功したと考えている。少人数の利点を生かすように考えたが、普段の講義や実習との差異を明確に打ち出すために、かなりの努力を要した。一方、内容的にはやや盛りだくさん過ぎたかも知れない。良い雰囲気のなかで1学期のゼミが終了できたことは何よりも嬉しかった。
 なお、フィールド科学教育研究センターでは、講義の充実をめざして、全受講者に対して講義内容や利用施設・設備などに関するアンケートを実施するとともに、各セミナーの『案内』と『報告』をセンターホームページ上にできる限り公開している。

ニュースレター3号 2004年11月
 教育ノート