ポケゼミ報告2011「原生的な森林の働き」

森林環境情報学分野 講師 中島 皇


 今年度は5月の初めが幽仙谷集水域天然林研究区(後述)の毎木調査(6年毎)にあたり忙しくなるため、参加者に都合をつけてもらって1コマセミナーを4月からスタートした。2回目は5月の後半にいずれも吉田キャンパス北部構内で行った。6/19(日)には都市近郊林と見本林の見学のために上賀茂試験地で1dayセミナーを、7月に芦生研究林で合宿形式セミナー(2泊3日)を行った。参加者は4名(男3、女1)、学部別は(工2、農1、総人1)、出身地は栃木市、宇治市、奈良市、福岡市。フレッシュな新入生諸君がフィールド(森林)に出て、自ら体験し、考え、自然と人間の関わり方に興味を持つ契機とすることがこのセミナーの目的である。
 芦生での集中セミナーは、7/2(土)の広河原バス停集合で始まった。佐々里峠をフィールド研の車で越えて由良川の集水域に入る。この峠は冬期間は除雪が行われず通行止めになる。30分程で芦生に。昼食をとり、身支度を整えて由良川本流沿い(芦生では標高が低い谷沿い)の自然を観察しながらトロッコ道をのんびり歩く。昔、集落があった灰野では神社の側に倒れた苔生した大きな木に圧倒されていた。夕食は4人で協力して餃子作り。自分の「始末」は自分ですることもこのゼミの重要な要素である。夜は、芦生研究林の概要と抱える問題点の説明受け、それについて話し合った。
 7/3(日):スッキリしないが、雨は降っていない。昼食のサンドイッチを作って出発した。幽仙谷の大面積・長期プロットや暖温帯と冷温帯の移行帯についての説明は実感できたか!?今年は林道沿いにご馳走が待っていた。ナガバモミジイチゴの大きなオレンジ色の実。この時期に出会えるのは珍しい。トゲに刺されながらも恐る恐るほおばっていた。事務所からは400m程高い丹波高原。杉尾峠からは日本海(若狭湾)もうっすら見える。上谷の由良川最源流を長治谷まで、途中で昼食を挟んで約2時間半で下っていく。ナラ枯れで枯れたミズナラの幹をじっくり観察したり、トチの大木にある洞に入ったり、ブナの倒木の橋を渡ったりと、人為的な影響の少ない原生的な森林を満喫したようである。ただ上谷でも枡上谷出合あたりからは左岸と右岸の林相が大きく異なり、かつての木地師たちの住み跡があり、鹿の激増による林床植生の激減など、人為や人間の影響?も見られる。それらも含めて原生的な森林というものを考えてくれれば、このゼミを開講している意味がある。長治谷作業所に到着後、上谷・下谷の量水堰の近くで流量観測を行った。その後、下谷では大桂、二次林と人工林を観察し、幽仙谷では天然林からの流出物を回収した。夕食は鍋。皆、夏の鍋を腹一杯食べて満足の様。食後にはTAの大学院生や研究員である先輩たちの研究紹介を眠気と戦いながらも真剣に聞き、質問をしていた。
 7/4(月) 流量観測データをレポートにまとめ、回収してきた流出物と水生昆虫の観察とデッサン。最後に宿舎・食堂の片付けとフィールド研からのアンケートを書いて、芦生から広河原バス停までの送りでセミナーは終了となった。感想文にはそれぞれに、芦生の森に触れられた心地よい疲れと満足感が表現されていた。