芦生研究林のモリアオガエルにおける 繁殖時期の空間変異とその要因

芦生研究林のモリアオガエルにおける 繁殖時期の空間変異とその要因

神戸大学理学研究科/日本学術振興会特別研究員(PD) 高橋 華江

 縁があり学部生の頃から7年間、芦生研究林の両生類、とりわけモリアオガエルを対象に研究を行ってきました。モリアオガエルは水辺に程近い樹木や岸辺に白い泡で包まれた卵塊を産み、オタマジャクシはその中で孵化し、2週間程の後に崩れ落ちた泡の残骸と共まろに水域へ転び出ていきます。初夏に芦生研究林を歩けば卵塊に縁取られた繁殖池をいくつも見つけることができるでしょう。私が注目したのは、この池同士の繁殖時期の差異がどのように形作られるかという点でした。一般に繁殖時期の空間変異は、気温や降水量といった環境要因の違いで説明されます。しかし、そのような研究はほとんどが緯度勾配などの大きな空間スケールの中で行われており、小さな空間スケールの中ではほとんど行われていません。小さな空間スケールの中の繁殖時期の差異は、メタ個体群の個体群動態において重要です。
 そこで繁殖期(5~7月)に林内で20箇所以上の繁殖池をみつけ、それぞれの池の繁殖時期を6年に渡って調査しました。また、環境要因として池の水温と水位、周辺の気温、オタマジャクシの捕食者であるアカハライモリの密度なども調べました。研究林が記録している詳細な気温や降水量のデータも合わせて解析を行いました。
 その結果、10キロ平方メートル程度の調査区の中にある池間であっても、繁殖ピークは2週間以上異なることがわかりました。オタマジャクシは池に入ってから2週間程度でイモリの捕食から逃れることのできる体の大きさに育つことを考慮すると、この空間変異はオタマジャクシの生存に重要と考えられます。繁殖前に水位が高くなる池は繁殖ピークが遅くなる傾向がありましたが、環境要因では調査した全ての池間の繁殖ピークの差を説明することはできませんでした。むしろ、個体群サイズから生じる統計学的な効果が池間のピークの差を説明しました。すなわち、個体群サイズが大きいと繁殖ピークは平均的になり、個体群サイズが小さいと繁殖ピークが極端に早いか遅い傾向を示しました。このような繁殖ピークに対する個体群サイズの効果は今まで全く注目されてきませんでしたが、小さな空間スケールの中では重要と考えられます。
 本研究成果に至ることができたのは、毎日山に通う私を研究林の職員の皆様が手厚くサポートをしてくださったからに他なりません。この場を借りて深く感謝を申し上げます。芦生研究林とモリアオガエルよ、永遠なれ。

ニュースレター50号 2020年2月